「ホントはそのまま僕のマンションまで来てもらおうと思いました。やめました。ネックレスの主のような男にはなりたくないんで」

心にズキンと突き刺さるように所長は言い放つ。

私からは何も言葉にすることはできない。

「どうぞ。もう今日は帰っていいですから」

シートベルトをはずし、ドアを開けようとしたとき、右手を所長の大きな左手に握られた。

「むつみさんにぶらさがっている見えない首輪を取り除きますから。必ず」

そういうと右手を解放してくれた。

何も言わず、私は車を降りる。

車は来た道へ戻って行った。

自宅に戻り、明かりもつけず、ベランダの窓を開ける。

生ぬるい風が流れ込んできた。

所長の自宅マンションへ行くんじゃないかな、という所長の言動もなんとなくあの流れで想像はついた。

所長との一夜の行為で私のバカげた行動が帳消しになるわけではない。

ただくちびるから注がれた、ぬぐいきれない甘い熱を放出するには都合がよかったのかもしれない。

一緒に仕事をしてミスをみつけるたびに、私の背中にあるほくろを数えた大和のように同じことをしてほしいと体はのぞんでいたのだろうか。

そんなひどい仕打ちを所長が望むはずはないと高をくくってしまう愚かな自分もいたのだが。

ブーブーとカバンの中にあるスマホの着信バイブが鳴っていた。

表示画面を見ると大和からだった。