恋愛事案は内密に

「こんな年上の私なんか、五十嵐さんがふさわしくないんで」

所長は目を丸くし、は? と一言口にした。

「所長にはもっといい方がいらっしゃいますよ」

所長は黙ってくちびるをかみしめている。

視線を地面にうつし、声を荒げた。

「うぬぼれてましたね、自分」

「うぬぼれていたなんて、そんなことは……」

「むつみさんにふさわしい人が、うらやましい」

私と所長の間を縫いながらカップルや家族連れが横切っている。

皆、私たちのことなんてお構いなしに、笑顔で楽しそうにしゃべりながら。

「ごめんなさい。今日はこれで失礼します」

「……わかりました。それでは」

私は軽く頭を下げ、振り返ることなく、来た道を戻る。

私のあとをついてきて、待って、なんていう言葉をほんの少しだけ期待した愚かな自分もいたけど。

自宅について居間に戻り、所長がきれいに畳んでくれた布団を押入れに戻す。

ふんわりとやさしい柑橘系の香りがまだ残っていた。