恋愛事案は内密に

ありがと、と高砂さんはやさしい口調で返してくれた。

水たまりを気にしながら敷地内をぐるりと一周した。

だいぶ言葉をかけられなく沈黙が続きそうだったから、私から話を振った。

「五十嵐所長のことなんですけど。濱横にいたということは知ってますよね」

「五十嵐くん? ああ、もちろん。後輩だし。あの子いい子だよね」

「え、ええ」

「年上も年下にも優しい。将来の本社勤務とかって言われてるみたいよ」

「……そうですか」

「五十嵐くんだけは謎だなあ」

「謎、ですか」

確かにいつも笑顔だけれど、その笑顔の先にあるものが何かよくわからない。

「よくわかんないんだよね。絶対何か隠してると思う」

「隠してる?」

「話をしても行動をみても隙がないっていうか。まあ、自分が興味ないからかもしれないけど」

これ以上言うと何か詮索されそうな雰囲気だったので、話題をかえた。

「栗林さんはどうですか? 昔の会社で取引先の人として接しただけですけど」

「んー、栗林くんはどうしようもない奴に見えて、まっすぐなんだろうな」

「まっすぐ、ですか」

栗林さんの奥にいる、大和の存在を思い出す。

その言葉が似合う人だったらよかったのに。

「さて、そろそろ時間ね。戻らなくちゃ」

高砂さんの後を追いかける。

高砂さんのすっきりしたような横顔をみて、昔の同僚の恋バナを話し終えて安心した顔を思い出した。