臆病者達のボクシング奮闘記(第二話)

「伸びていない左ジャブから打つ右ストレートは、非常に危険だ」


 実際に梅田からパンチを当てられた有馬は、納得し始めたようだが、他の三人はまだ分かっていない様子である。


 梅田は更に話を続けた。

「有馬、そのままの姿勢でいろ。いいか? 相手がこの瞬間にパンチを出したら、遮るものが何もないんだよ」

 梅田は、説明しながら有馬にパンチを当てる動作を繰り返す。


「左ジャブの後、右ストレートを打とうとして体重を前に乗せた時に、このパンチを喰らったらダメージは最悪だ。……これで試合が終わるケースが多い」


 ようやく三人も分かったようである。

 梅田は、ゾッとしている一年生達の様子を見た後、有馬に左を伸ばさせる。

「有馬、もう少し顎を引け。……この状態だったら有馬の左腕が邪魔で、相手はパンチを打ちにくくなるから被弾する確率はグッと減ってくる」