「届かなくてもいいから、右足で思い切り蹴って打ってみろ!」

 飯島に言われて無理矢理踏み込んだ康平だったが、パンチは届かず、左ミットに当てようとするあまり上半身が前のめりになってしまった。

 ペチ!

 空振りした康平の左頬へ、飯島が右のミットで触っていた。

「オイオイ、そんな前のめりになったら、ジャブを空振りした時カウンターを喰らうぞ! さっきも言ったが、踏み込む時は右足で思い切り蹴るんだ! 届かなくてもフォームは崩すんじゃないぞ」


 その後康平は、ひたすら右足を蹴ってジャブ二発を繰り返したが、結局一度もミットに届く事なく二ラウンドを終えた。

 続く白鳥も、飯島のミットに向けてジャブ二発を何度も放ったが、一度もミットから快音が出る事はなかった。ただ彼の場合は、夏休みに大学生の山本と練習していたので、フォーム自体は綺麗に打っていた。


 白鳥のミット打ちが終わった後、飯島が口を開く。

「踏み込みというのは大事なポイントなんだが、一朝一夕で身に付くものじゃないからなぁ。今日からミット打ちで最初の二ラウンドは、わざと遠くから打たせるからな!」