二次会に行くという友達やクラスメートと別れて、ロビーへ急いで向かう。


「遅くなってごめん……っ」


ロビーのソファーに座っていたそうちゃんに声をかけた。


「いや、こっちこそ突然誘ってごめん」


部屋へ昇るエレベーターの中でそうちゃんの後ろ姿を見る。
こう見ると、本当別人。

不意に振り向かれて、ばっちり目が合った。


「何、どうしたの?」

「え、いや……っ」

「やけに静かだな」

「そ、そうかな」

「あぁ、ホテルじゃなくて、バーとかの方が良かったか?」

「え、え?」

「俺別に、ゆっくり2人で過ごしたかっただけだから。そんなに緊張すんなって」


私が静かなことに、変に気遣われてしまったようだ。

そりゃ、それを意識してるから静かだったんだけど。

変に気を回させてしまい申し訳ない気持ちになる。


いいや、そうちゃんだって2人で過ごせればいいって言ってるんだし。

何もしないかもしれないんだから、こんな取り越し苦労いらないよ。


いつも通り、軽い気持ちで行こうっ。


なんてたかが外れてしまえば単純なもので……。



「そうちゃん見てっ、夜景めっちゃ綺麗!」


さっきまでの借りてきた猫のように緊張していた私はどこへやら。

部屋に入るなり、窓一面に見える市内の夜景に、素直にはしゃいだ。

そんな私に、くすっと笑うそうちゃん。


窓にへばりついて、はーっと感嘆の声を漏らす私の横にそうちゃんが並んだ。

一緒に夜景を眺めているものとばかり思っていたら、そうちゃんの視線は私に向けられていた。

それに気付いて、おずおずとそうちゃんに目を合わせる。


「……キス位ならいい?」


キスという単語を聞いた瞬間、全身に緊張が走った。


「い、いいよ」

と、ドギマギしながら答えると、ぷっと吹き出すように笑い始めた彼。


「そんな力むなよ、あはは」

「だ、だって」


そうちゃんの顔が近づいて、私は意を決して目をぎゅっと閉じた。

やがて、唇が触れる。


経験が分かる上手なキスだった。

気持ち良くて、全身の力がほぐされるように抜けていき、そのまま身を委ねた。