仕事終わり、すっかり夜になってしまった駐車場。

こんな時間帯に俺の車に張り付く不審な女。
そんなのは俺の知る限り一人しかいない。

女にしては長身な体を縮こませて、両手で口元を覆ってはーと白い息を吹きかけていた。


「君も暇だなー」

その様子に呆れながら声をかけると、嬉しそうに微笑む彼女。
一体どれだけ待ったのか、鼻が赤くなっている。


「部長、今日は歩いて帰りませんか?」

「やだよ、何分かかると思ってるんだ」

「そんな大げさな、たかが20分位でしょう?」

「明日の朝はどうするんだ」

「歩いて行きましょうよ。いい運動になりますよ」

行きましょうよってまさか……。


「えへ、今日は泊まるつもりで来ました」

「だめだ、だめだ。帰れ」

「嫌ですよ、絶対居座りますからね」

そう言ったら絶対に退かない、頑固な女だ。

こうなったら最終手段。

少し声のトーンを落として、虚ろな目でこう言った。


「理津子悲しむだろうな、こんな若い女を家に泊まらせたら……」

「そんなことを言っても無駄ですよ。許可なら取ってきました、一方的にですけど」


ふんっと、自信満々にそう言い切った彼女。

どういうことだ、死者と交信でもできるのか。
それとも日頃の疲労でとうとう頭が……、


「さ、行きますよ。部長っ」

強引な彼女にぐいぐいと腕を掴まれ、諦めて歩いて帰ることに……。

鼻歌を歌う彼女。
綺麗で頭も切れて、その上家事もこなせる。

どうして10も年の離れた俺にこだわる。

どうして、ちゃんとした幸せを願わない?。

俺に執着しなければ、幸せにしてくれる男はたくさんいそうなものを。