「たち、ばな?」



「どうした!」



「え」



「なんかあったのか!」



「あの、え、帰ったんじゃ…」



「お前置いたまんまなのに帰るわけねぇだろ」




うそやろ

でも……


「なんでここにおるん?」




「ふつう心配んなるだろアホ
お前暗いとこ怖いっつってたし。

そしたら助けてって言うし、なんかあったと思うだろ」






「そんなことでここまで来てくれたん?」




「そんなことって、お前なぁ…
泣くほど怖かったんだろ?」


「泣!?」




真っ暗やからバレてないと思ってたのに



私も今橘がどんな顔してるんか分からんのになんで橘は分かるん!?




「なな泣いてないわ!」




泣いていることがバレて恥ずかしさで顔が首からだんだん熱くなってきた


とっさに口から出た強がりはどもってしまい説得力が全くない





「こんな時まで強がってんじゃねぇっつのアホ」



目が慣れてきて橘が私の頭に手を置こうとしたのが分かった

しかし私はその手を振り払った




これ以上かっこ悪いところ見せれん!



「泣いてないってば!
しつこ…」





私が言い終わるまでに橘の両手が私の頬に優しく触れ、私の涙で濡れた頬を指で拭った



「ばればれ」




温かくて、大きくて、手で触らなくても分かる、力強い橘の手







私は、橘のことなんにも知らんのに
橘には私のことが分かる

なんでなん?




橘ばっかりずるいわ……




私は橘の手にゆっくり触れた



「ック、泣いて、ないって、ヒッ
言うてんのに、ッウ」



「ボロ泣きしてんじゃねーか」




もう、いやや
恥ずかしい
16にもなってボロ泣きとか情けない
しかも理由が暗闇怖かったからとかもっと情けない






「ッウ、だぢばなのあほーー」



「ん、ごめん」


そう言って橘は頭をペコッと下げてそのままの状態で動かなくなった






別に謝ってくれなくてもよかった
怒ってるわけじゃない




自分でちゃんと分かってた
心配してくれて、来てくれて、
嬉しいって


分かってたけど


認めたくない自分がいる




なんで素直になれんねやろ

最悪





…今日だけ


今この瞬間だけ、
ちょっとだけ甘えてしまおう



私は垂れそうになった鼻水をズズッとすって落ち着きだしてから橘の頭に手を置き話を始めた



「たちばな」




「ん?」



「さっきはごめん、足痛かったやろ
あと、ありがとう来てくれて」


そう言うと橘はゆっくりと顔をあげた
目がだいぶ慣れてきたので橘の顔が見える


橘はびっくりしたのか目を丸くしてこちらを見ている



「小鳥遊…」




「んと…まぁ、あれです。
けっっっこう、嬉しかった、かな、です」


何を言うとるとんだ自分は。


まだまだ橘に素直になるのは恥ずかしく、
変な日本語になってしまった


でも、きっと橘には私が何を言いたいのかが薄くでも伝わった、とは思う





暗いのはわかっているが橘に見られていると思うと急激に恥ずかしくなってきて顔を隠さずにはいられなくなった


私が顔を手で覆おうとしたその時、










グイッ








「ほぁっ!?」





急に手を強く引かれ私の体は橘の腕の中にすっぽりと収められた



その行動の意味が理解できず私の思考回路は停止してしまい、橘にされるがままの状態だ




「えっと、あのー、ん?え?は?」


訳の分からん言葉が私の口から次々と出てきた



とりあえず。整理だ。


なぜ私は今橘の腕の中にいる?


なぜこうなった?


なぜ橘は私を抱きしめた?


てかいつからこうしてるっけ?





うん、だめだ、思考回路が追いつかん




私が困惑していると
橘がようやく口を開いた



「お前さ」



「はい…?」



「わざと?」



なんだそれ



「なんの話でしょうか」




「絶対わざとだろお前」




「は?」


全く話についていけず、拍子抜けな声が出てしまった私に対し、私がバカすぎて呆れたのか橘はハァーとため息をついた



「まぁ、いいや」




「なにそれ!気になるやん!」




「いいんだよ
もう少ししたら教えてやるからそん時がくるまで考えとけ」




こいつーーーー
まぁ理解力ない私が悪いんやけど





ていうか

「橘くん、もうそろそろ、いいんでないかなこれ」




私がそう言って橘の腕を指差すと
橘が一瞬ピクっと動き

さっきよりも少し強く抱きしめられた



「たちばな、く、るしい」



「もちっとだけこのまんまでおねがいします」




「じゃぁもちっと緩めにお願いします」



そう言うと橘は少し力を抜いて、
またさっきと同じく優しく抱きしめてくれた






なんだかんだ言うて落ち着くな、橘にギュッてされるのは。


いや緊張はするけど、
なんか心地いい…



もう少しこの瞬間が続いてもいいかな

なんて思ったりもした





「怖かったよな」






「うん、でも橘来てくれたからもう大丈夫やで」





橘の背中は広くて、肩甲骨が出ている
触れるだけでも分かる
きっとかっこいい背中なんだろう



腕も割と筋肉質で、がっちりしていた
鍛えてるんかな?




しかもなんか、いい匂いがする




あー、この匂い


橘の匂いや



この匂い結構好きかも



スンスン

「なぁ、橘って香水とかつけてんの?」




「つけてねーよ」


スンスン



「そうなんや」



「なんか臭い?」


スンスン


「いや、なんていうか…」



「なんだよ臭いんだったら臭いって言えよしゃーねぇだろ、俺今日汗かいたし」


スンスン

「いやいや、臭くない
てか、むしろいい匂いかな
この匂い好きやで」



「は?」


スン…

「あ!い、いやだからあのー…」


やばい!今のは絶対引かれた
変態発言やん



橘からものすごい勢いで離れて
うまいこと弁解しようとするけど
いい言い訳がみつからない


顔がどんどん熱くなる


もう最悪、
顔どんどん赤くなってくのが自分でも分かる


恥ずかしすぎる




「お前さぁ」


あーきもいとか変態とか言われるんやろなー……



「やっぱ絶対わざとだろ」



「はい?」



「あと匂い嗅ぎすぎ
さすがの俺も恥ずかしい」


「っ、すんません、」



「あと」


まだあるんですか
はい、すいません反省しております



「無防備すぎ。襲うぞ」



「はー!?」






「こういうことすんの俺の前だけにしろよ」




「もうせんわ、あほ!」









こいつほんまなんやねん

絶対おかしい