泡影の姫

指定した時間を一時間過ぎても、彩愛さんは現われない。

時計を見てため息を吐く。

そろそろ限界かも知れない。

残暑の厳しい季節だし。

紫外線もまだその勢力を衰えさせていないし。

そろそろ引き際だろうか?

なんて思うけど、ひょっとしたらという可能性を捨てきれなくて私は待ち続ける。

そんな思いを吐き出すようにため息をついた瞬間、突然ケータイが私を呼んだ。
あまり鳴ることのない着信音に驚きながら通話ボタンを押す。

「なんでいるの?」

人ごみの中に視線を彷徨わせて彩愛さんを探す。
道路を挟んで向こう側に、彼女はいた。

「いると思ったから、来たんじゃないの?」

私は電話越しにそう聞き返す。
ケータイ越しに息を飲む音が聞こえる。

「そうかも、しれない」

ケータイの声は少しだけ掠れていて、若干雑音が混じる。

「少しだけ、話せませんか?」

そういって、私は一方的に電話を切る。
機械をを通してじゃ私の気持ちは伝わらないって思ったから。