ほっとした私を見て先生はくすっと笑う。

「……ちょっとは、マシな顔になったな」

「そりゃぁ、痛いですもん。水抜き」

「そっちじゃなくて。屍からただのバカに戻ったなって意味だ」

からかうような先生の口調に拗ねたようにそっぽを向く。

「どっちにしてもひどいです、先生」

灰色の気持ちを抱えたまま退院し、灰色の気持ちで通院した毎日を思い出す。
確かに屍だったかもしれない。

私の八つ当たりのような言葉も、態度も、先生は何一つ注意することなく事故前と変わらず接してくれていた。

それは先生なりの気遣いだったのかもしれないと、今なら分かる。

「先生、ありがとうございます」

「なんだ、改まって。気持ち悪い」

「失礼なっ！また怪我して舞い戻ってきますからねっ！？仕事増やしますよ！？」

「どんな脅し文句だそれは」

呆れたような先生の言葉に私はけらけら笑う。

「無理は、もうしません。心配してくれる人がいるから。どうやら私はもう大丈夫みたいです」

「……そうか」

私の報告を軽くうなずいて聞いてくれた先生は私の頭を軽く撫でる。
それを合図に私は荷物をまとめる。

ちらりと時計に目をやれば結構時間が過ぎていることに気付く。
湊はまだ待っていてくれるだろうか？と彼の顔を思い浮かべる。