「うわ、また雨かぁ……」



6月に入ると、春の暖かさから一転、じめじめとしたいやな季節になった。


いつも通りアパートの階段を下りて、すぐにカサを開く。



「あ、ももだ」


「!」



歩き出そうとしたとき、うしろからわたしを呼ぶ声が聞こえてきて、足をとめた。


ここ最近、この声を聞くと梅雨という季節に感謝したくなる。



「氷野くん! おはよ〜」


「ん、おはよ。 また雨降ってんだ」



そう返しながら、氷野くんも水色のカサを開く。


ピンクのカサと、水色のカサ。


雨が降り続ける空の下に、ふたつのカサが現れる。