心なしかすねたような声で、わたしが帰るだけなのに、惜しんでくれてるのかな。
なんて自惚れたこと思っていても、うまい返しは見つからなくて。
「言い逃げじゃ……」
「違うの? 俺、そんなに策士? ていうか思わせぶり……?」
その言葉で、豹変した気がした。
氷野くんがイジワルだ。 わたしの反応を見て楽しんでるんだ。
そうだよ、策士というより、思わせぶり。
わたしが自惚れるようなことをこんな近くで言うなんて、思わせぶりもいいところだ。
「もう、帰らなきゃ」
うるさい心臓の音が氷野くんにも聞こえてしまう。
はやく、はやく帰らないと。