え、と、心の中で驚く。
副業?
出版社?
それを表で音にしなかったのは彼が言葉を続けそうだったからなのと、少し香るお酒のそれが、まだ話を聞こうと囁いたから。
「でも、本――――小説が嫌いで。……『菜々美』はちょっと物書き」
頭の中に浮かぶ言葉を、そのまま辿るように口にしていく都世知歩さん。
その中で区切られたように聞こえる『菜々美』の三文字は私と都世知歩さんの境界線であり、私と都世知歩さんの世界を繋ぐ言葉みたいだった。
境界線は、区切るためのものか、繋ぐためのものか。
「わかるかなー」
今度は手の平で天井を仰ぐようにした彼は、疑問でも捨てでもない語尾を空に放った。
わかる、とは。
ななみさんのことかな。
そう考えてみたら、さらりと都世知歩さんが菜々美さんのことを「恋の人」と口にした。
恋の、人。
なんて素敵な言葉。
「都世知歩さんは、何で小説が嫌いなんですか?」
問うと不意にこっちを向いた都世知歩さんが、柔らかい表情で「すわって。すわりなさい」と自分の向かい席である私の席のところをバシバシ叩いた。
立っていた私は椅子に腰掛ける。
「小説が、たったひとことで人を亡くすから」
