前を向いた彼の片耳、短めの髪が掛けられた左耳の色がないような気がして。
お酒を飲んでいたこと。
何か、何かあったことくらいまでは予想がついた。
「衵、ただいま」
ふとこっちを向いて、微笑む都世知歩さんはどこか弱っているようだった。
『何かあったの?』
そう聞いていいのかわからない私は曖昧に「ご飯たべますか」と問うてみた。
エプロンの端っこを握りしめて。
彼は、ごめんと返しただけだった。
ううん。
ぜんぜん、
大丈夫です。わたし。
首を横に振って、すぐ眉を垂らす。
上がった都世知歩さんは鞄を下ろしながら前にある自席に座り、口元に両手を立てた。
前からじゃないと、彼の前髪で表情が見えない。
キッチンに突っ立っていた私は握りしめていたエプロンを離して、どうしたらいいのかわからず、後ろの傍から「とよちほさん」と、消え入りそうな声で呼ぶしかできなかった。
きっと、私の声すら届いていない彼。
溜め息をついてそっと、天井を仰いだ。
「……つらいな」
そう、口にした。
声が震えていたような気がしたのは、気のせいか。
この空間には二人しか居ないから“本当”が確かめられなかった。
小さな沈黙があった。
その沈黙の間に、ない頭を働かせた。
都世知歩さんは大切なルームメイトだ。
だから力になりたい。
何故かその内、もしかしたら、“恋”のことかもしれないと思った。
