卯月半ば。
その日は水曜日だった。
普段通り、出勤している彼より先に帰宅していた私は、晩御飯にアンチョビとキャベツのスパゲッティを作って待っていた。
何時に帰ってくるかわからないからラップして作り置き。
都世知歩さんは自分で適当に作るからいいというけど、そういうわけにもいかない。
そんなに上手くない料理の練習にもなるし苦じゃないからいいのだ。
何だかんだ、都世知歩さん。
私がまだちゃんとしたお給料が入らない月――三月四月の家賃をいつのまにか払ってくれていたことを、私は知らなかった。
私も社会人になるからと、ただでさえ四分の一でいいと言ってくれた都世知歩さんを押し切って、半々で家賃を払う契約を結んだのに。
両親が一人暮らしの為持たせてくれたお金を下ろして中村さんのところへ行ったら、もう受け取ったと言われてしまって初めて知った。
朝早く家を出る日の彼を追いかけそれを言うと、「じゃあ出世払いで。倍返しな」と軽くあしらわれた。
私は何もできていないのに、これじゃ対等でいられない。
ただ転がり込んで居候しているようで凄く申し訳ない気持ちだった。
シャワーを浴びた後、先に一人でご飯を済ませた私はすることもないので食器を洗っていた。
考え事をしていると、外から階段を上がる音がして、その内キッチンの窓に影が見える。
鍵が開けられたところで留めた水。
「おかえり――――、?」
シンク下のタオルで手を拭いて玄関の方へ向いた。
いつもなら、都世知歩さんの「ただいま」が返ってくるはずのそこに音がない。
でも確かに玄関に足を踏み入れた彼は俯いていて。
返事がなかった。
ただ、立ち竦んだまま。微かなお酒の香りがしていた。
