「……衵?」
顔を覆う私を覗き込むように問い掛ける都世知歩さん。
声が、やさしかった。
「ごめ、なさ…」
「何で衵が謝るの」
私は、多分都世知歩さんに大切なひとがいるってことを知っているのに。
そう顔を上げて目にした都世知歩さんが、私の想像に反した表情を浮かべていたことに驚いた。
都世知歩さんの眸は私を心配そうに見つめていて。
「まさか、初めてだったとか」
「っ」
思わずその言葉に詰まる私を見て目を丸くした彼は、心底申し訳なさそうに、まるで泣き出した小さい子にそうするように私を抱き寄せた。
「ごめん。本当にごめん、衵。あー…ほら、今日エイプリルフールだから。大丈夫。…な?ちゃんとうそになる」
『嘘になる』という都世知歩さんの言葉は胸に突き刺さった。
「殴っていいから」
「できません」
わざとじゃないことくらいわかる。知ってる。
「家賃…ってそういう問題じゃないのか」
「いりません」
「ごめ…」
今も優しく背中を擦ってくれる都世知歩さんを困らせたいわけじゃないし、きっと大したことでもないのに情けない。
「…とよちほさん」
「うん?」
「誰かと間違えちゃったんですか…」
一瞬困っていた表情を止めた都世知歩さんを見て、気にするようなことじゃなかったかもしれないと思った。
けれど都世知歩さんが、その後ふんわりと笑って私の前髪に触れるから。
「そういうわけじゃない。これは本当」
この言葉が気休めだとしても。
ぽろぽろと零れる涙を、都世知歩さんは困ったように、本当に本当に申し訳なさそうに微笑んで拭ってくれた。
