固まる私を前にし、私と違って驚きもしない都世知歩さん。
…ちいさく笑みを浮かべる。
何で。
何でだろう。
理由がわからない。どうしてそんな風に微笑むのか。
「……よんだ」
“呼んだ”。
“呼んだから”と。
自分で言った言葉を確認するように、私を見ていた。
すると彼は身体を起こして、ベッドの端に座り、一瞬春風が吹くのを待ったみたいに。
そうしたら、
春風は吹いて。
私たちの中の何かを、其々急かすように吹いて。
都世知歩さんの前髪が不意に影を落として。
額を寄せ、春風に。
くちびるに、はじめてはふれた。
