理想の都世知歩さんは、





言葉通りひやりとした感覚が背筋を這って、足を留めた。



ゆっくりと振り返る。


玄関前の廊下には、漏れた明かりに照らされて、人影が浮かび上がっていた。



都世知歩さんじゃ、ない。


だって彼は合鍵を持っているし、それに、宅配便も大家の中村さんも、こんな時間に訪ねてきたことはなかった。


それに気付いたら怖くなって。


こういうとき、私は独りだ。家の中には誰もいない。



すると再度呼び鈴は鳴り、肩が上がる。



急かすような音と一緒に速くなる鼓動で足が竦む。

体が震える。


どうしよう、と。頭から被った毛布の端を、手が白くなるほど力を込めて握る。


その時、呼び鈴の音から一間置いて、声が聞こえてきた。




「宵一――?」



「、」

声の主は、線の細い声をした女の人だった。



一瞬その名前に首を傾げた私は、それが都世知歩さんの名だということを思い出して指を震わせた。


ということは、都世知歩さんのお知り合いの方なのだろう。


その事実に幾らか安堵した私は、だったら出なきゃと爪先を玄関の方へと向けたが、続けられた声に、再度足を留めることとなる。





「藤原です、菜々美…」






――――ナナ、ミ…?



瞬きをする合間に「明かりが点いていたから」と、向こうで声がしていたが、私はその聞き覚えのある名前を記憶の中から探していた。






『…………………………ナナミ?』




『俺菜々美って言ったんだ…?』







そうだ。


そうだった。