理想の都世知歩さんは、





表示に都世知歩さんと出ているそれを手に取る。

「もしもし」


≪衵?≫


「はい。どうしたんですか?まだ仕事中?」

≪ん、今煙草…休憩中≫

「そうでしたか。お疲れ様です」

≪うん。悪い、今日夕飯までに帰れそうにないから先食ってて。多分遅くなるから適当に食って帰る、あと――――≫

「?」


業務連絡に手慣れたように事項を述べる電話の声が、ちょっと疲れている気がした。


≪いっか。何でもない≫

「え」

≪早く寝なさい≫


展開の早い会話にこちら側で首を傾げると、ころころと楽しそうに笑う声が聞こえてくる。


疲れ声と一緒に何かを隠すかのようなそれに気付かない私は、ただ向けられ、与えられる現在の声に頷くことしかできない。


少しの違和感では、当たり前の反応を変えることなんてできない。



電話を切ってふと顔を上げる。

窓の外の世界は夜へと移り変わっていて、私はそこに消えた違和感を覚えた。


電話を切った瞬間から背中に張り付くような"一人"に理由のない恐さを覚えた私は、買ってきたものの整理を終えた後、急かされたように早くお風呂も入ってしまおうと、服を脱ぎ棄てお風呂に駆け込んでカーテンを閉め。


恐さという感情を洗い流してしまった。





お風呂から上がった頃、私は夕飯のことを忘れたまま今日はもう早く寝ようと思っていた。




せかせか布団を被ってみたはいいものの、ちゃんと鍵を閉めたか気になってしまって、毛布を被ったままもう一度キッチンの電気を付け玄関へ向かった。

ああもうどうしてこういう時ばかり気になってしまうんだ……!


心配した鍵はしっかり閉まっていて、安心した私は玄関に背を向ける。もう寝よう。もうだめだ。



と。


その時――――


静まった一人の部屋に、
呼び鈴が、


鳴り響いた。