「待った」
半べそをかきながら階段を上ろうとしていると、後ろから追って来た王子様が手にしていたものを見せてきた。
「わ、わるかった!そんな、安物のマルゲリータ一枚程度で仲違いみたくなると思わなかったんです。価値観の違いってやつじゃないですか」
なに言ってるんだ…?
謝ってくれてるのでしょうか…。
彼は今さっき食べたマルゲリータの新品を突き出して、一歩前へ踏み出した。
「だ、だから!今度はその、俺が一枚で和平衵がそれ以外を平らげればいいと思います」
「え?いや、え?そこまで」
「そっそれで気が済むのなら!」
急に一生懸命"思いやり"を伝えてくれようとしている?彼を見たら、何だか申し訳ない気持ちになってきて、私こそ謝りたくなってきた。
「じゃあ、陽が落ちてからの夕飯で待っているので」
「え、ゆうは…ちょっ」
夕飯って、まさかの夕飯もマルゲリータ!?
しかも都世知歩さん帰ってくるだろうしそんな勝手には決められないんだという思いを告げる前に、貴堂の王子様は自分が言い終えると力強くドアを閉めてしまった。
思い切り外廊下に響く鍵を閉める音が、代わりにもう来るなと告げてくる。
何と勝手な…。
私は痺れの取れた脚で階段を上がりながら、どうしたものかと頭を悩ませ始めていた。
またマルゲリータなのかな。
家へ戻ってもお腹は空くばかりでどうしようもないので近くの八百屋さんに買い出しに行った。
お肉屋さんや魚屋さんに寄り道していると、あっという間に陽が落ちてくる。
二人分の食糧や生活用品は一人で持つのには充分で、何だかふと家のことを思い出したりした。
お父さんは、絶対お母さんの荷物を持ってあげてたなあとか。
私が小さい頃は抱っこしながら荷物を持ってあげてる写真があったなとか。
そうしてアパートに着いて袋の中身を冷蔵庫に移したりしていると、不意に電話が鳴った。
