「……ゴメンナサイ」
何となく。何となくだけれど。
『踏み込むな』と言われた瞬間、都世知歩さんの顔が見れなくなった夜だった。
「~~っふぁ、ふぁ、ふぁ…」
朝。
今日もカーテンの隙間から差し込む光加減でわかる。凄く良い天気。春は風も心地良いし、心なしか香りもやさしい気がする。
でも未だ気温的には低い方だから、窓は起床してからでないと開けられない。
そんなことをぼうっとしたままの頭で考えつつ、窓を開けて、胸いっぱい大好きな朝の空気を吸い込むと、伸びをしながら顔を洗いに行こうとドアまでパジャマの裾をひきずる。
今日は私がご飯の当番だから、何にしよう。そういえば前回は意地悪回でメインが食パンのミミだったからなあ。
とよちほさん。
ジャムはいちごだけじゃないんだよ。巨峰味も買ったんだよ。見せてあげようかね。
ふひひと笑みを浮かべながらドアノブを捻って引く、と、突如目の前に大きな影が立ちふさがった。
そして流石に寝起きの悪い私でも目を丸くしたまま固まった。
「……はよ」
当然その影の主は都世知歩さんで――いや彼しかいないけれど――心掛けた小さな声での挨拶が降ってきた。
「え、お、おはようございます…?」
「…」
なんだなんだ、黙っている。
目の覚めた頭で見上げると、ちょっとなんだか気まずそうな顔で私を見下ろしていて。
「なんだ」
ぼそっと呟いた。
なんだって!?
んああ言葉ってややこしいなあ。
イマイチ状況を掴めずぽかんとしていると、ニュっと伸びてきた腕が私の頭を捕えて髪をぼさぼさにされた。
「な!?」
「寝癖もあるしぼさぼさだぞー」
「更にぼさぼさになる!」
髪をぐしゃぐしゃにしたあと彼は顔を背けてしまった。
その背に、「どうかしたの」と問う。
すると彼は顔だけを振り返らせて、「別に?」と素っ気なく。先に洗面所へ入ってしまった。
