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「だから、ほんの僅かな間でも衵は、宵一と会ったことがあるよ」
兄ちゃんは私を見て、ふと微笑んだ。
懐かしそうに。
「あの時俺も母さんも衵と父さんのショー観ていて、それで居なくなったっていうから皆で捜して。父さん、見ず知らずの子と衵抱きかかえて帰ってきて、男の子の方病院連れて行こうかって」
「兄ちゃん憶えてるの?」
「俺小三とかだったから。衵全く憶えてない?」
そう問われて「ない」と答えようとして、思い出したことがあった。
そういえば私、ホームシックになった時。
『衵』って呼ばれて、何故か懐かしいって、思った。
聞いたことあるような気がして。
まさか、そういうことだったなんて。
「そんなこと、あるんだ……」
「俺も宵一の肘の傷見て引っかかって父さんに聞くまで分からなかったけど、確かに宵一だよ。衵を助けたのは」
「っ」
声にならない想いが零れそうな私に兄ちゃんは、はは、と笑った。
「衵、今すぐ宵一に会いたいって顔」
「…うん、今すぐ会いたい」
私は兄ちゃんにありがとうとだけ言って、走り出した。
早く、会いたくて会いたくて、堪らなかった。
