理想の都世知歩さんは、





おでこのところにある都世地歩さんの心臓。

鼓動は、ゆっくり。


私の心臓は今凄く鼓動が早いから、何だか悔しいような気持ちになって、涙が滲みそう。
滲みそうなだけ。



「前に例え話でした、“ネタ”の話憶えてる?」


私はそれを聞いて、すぐあの時の話だと思った。

菜々美さんの時の。


「『小説が、たったひとことで人を亡くすから』って言っていた?」


「はは、よく憶えてる」


そういえばあの時都世地歩さんは、妙に現実味のある例えをしていたのだ。


「俺、二歳の時に両親が離婚して母親が家を出て行って、父方に引き取られたんだ」


初めて聞くことに、小さく目を見開く。


「普通の、一般家庭だったんだけど。六歳の時、俺の入学に合わせて父親が再婚した相手が、今の出版社の、上の娘で。でもまあ、元々父方って言った通り離婚した段階で忙しかった父親だけじゃ育てられないから実家の方にいて。再婚してからも再婚相手――義母さんと一緒に暮らしてたわけじゃないんだけど」


あ、別に冷たくされてたとかじゃないから、と言う都世地歩さんの声が、あまりにも優しくて。


私は、頷くことしかできない。


「中学に上がる頃、父親と義母さんの間に子どもが生まれて」



そっか、そうだった。


都世地歩さん、りっちゃんの弟の話にもなったとき言ってた。


「弟と妹がいるんだっけね」


ん、と短い返事の後、「双子なんだ。可愛いよ」と柔らかい声がした。