「そういえば衵ってさ、何で敬語なの」
え、今その話…?
「年上だからかな」
「ふーん」
「…」
それだけ!?
脈絡ない都世地歩さんからはうちで使っている洗剤の香りしかしないし、お酒飲んでいるところも見てないから酔っ払っているわけではないのだ。多分、きっと。
「こ、怖い話ですか?」
何も言わない彼に沈黙が何となく怖い私は問う。
都世地歩さんは、くす、と笑った。
「怖い話じゃないよ」
それでも、そこまで。
「さっ、寒くない…ですか」
落ち着け落ち着けってもう、心の中では五十回くらい繰り返したはずなのに、私は意味もない問いを繰り返してしまう。
「さむい」
「ですよね、布団…」
「取らないから、入ってもいい?」
「え!?」
そ、それは……。
「……。怖い話、するんだけど」
「さ、さっきしないって」
「うんごめんね、嘘吐いたわ」
そう言いながら私の布団に上がり込む都世地歩さんに押されて――押されるだけだったらまだよかったんだけど――どうしてか肩を引かれて、腕の中に閉じ込められる。
呼吸さえ、苦しくなった。
