理想の都世知歩さんは、





誰が誰から聞いたわけでもない。

でも、知っていた。



私は白いニット帽を脱ぎながら、「都世地歩さんは兎も角、袿くんとか知っていたんだ」と呟く。


彼はゆるりと微笑んだ。


「俺は、一応他人じゃないし。だからといって宵一が酷い目に遭わせるとも思ってないから特に何もないけど」

知っている、と。


「宵一、いつ?」


少し驚いたような声色で問うたそれに、都世地歩さんと、その隣の奴の肩が動いたように見えた。


それを視線で捉えつつ、都世地歩さんを見る。

俯きかけていた彼は顔を上げて、その口を開いた。


「さいきん」


呟く眸が、揺れている。



視線を感じた私は目の前を見る。

最低最悪野郎が歯軋りか舌打ちをする勢いでこっちを睨んでいた。

ハッ。

何なの?
まずあんた関係ないし。衵に関わってほしくないし。

嫌味な程綺麗なお顔に似合わず羽織られたモッズコートは、まだ脱がれていない。



「迷惑?」



空を切るように、袿くんが問を投げた。


意外だった。

袿くんって緩い感じがあるというか、核心に迫るタイプには見えなかったから。


「っ」


都世地歩さんは袿くんを真っ直ぐ見た。


何で、って言いたそうな目で。