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あの後、りっちゃんとの会話に詰まった後、壁と階段の隙間から染み出るように姿を現した都世地歩さんに背筋は凍りついた。
ちらりとこちらを見るりっちゃん。
ところが都世地歩さんは私の顔も、りっちゃんの顔すらもろくに目にせず階段を上って行ってしまった。
?
おかしなリズムで壊れそうな心臓部分のトレーナーを握り締める。
は、と滲む息を吐き出す。
大丈夫、きっと、聞かれてない。
「――…は!よ!う!」
「うわあっ」
ガシャンッと音を立てて台所の淵にぶつかって我に返った翌日のお昼前。
私は、都世地歩さんが起きる前からお昼ご飯に取り掛かっていた。
「お前包丁持ったまま固まってたぞ?危ねぇなー」
恐る恐る振り返った先で、肩にふわふわな水色タオルを掛けて立っているのは彼。
「おはようって都世地歩さ、もうお昼」
「ん、こんにちは」
何か違う。
いつの間にか洗面所から戻って来ていたらしい彼はダイニングテーブルの席に着いて、其処に置いてあった雑誌を手に取った。
恐らく雑誌だと、背を向けた先で。
「衵、今日定休日?」
「う、うん。あ、でも夕方は二雲と会う」
まな板の上、人参に添えた指先が震えて危なくて、小さく深呼吸。
私は。
半年想った“好きなひと”と一緒に生活するということの意味に、直面して。
最近越して来たばかりなのに、どきどきしっぱなしだった。
