【SIDE 貴堂 律】
「たくさん、好きだから……」
和平は、ぽつりと言葉を吐き出した。
その声色に、その「好き」が雑じって。
何度も心の中で隠そうとしてきたことが滲んでいた。
でも。
今はそれどころじゃない。
「あ、アーー…。わーーーー」
頭を壁に叩きつけたい勢いで終わった、と思った。
和平が俯きかけた時瞬時にちらりと視線を左へ。眼球だけ動かす。
ポストから普通にその、和平が心捉われたと言ったばかりの『ダークブラウン』が覗いている。
ああ。寝癖ね、名残りあるな、あれか。
…。
ああ、うん、終わったんだよなと思った。
宵一。
お前和平の声が聞こえた途端持ち前らしい反射神経で其処に身を潜めたんだろうけど、どんな表情しているのかは知らないけど、頭だけはここから丸見えだからな?
和平が気が付かないだけで、丸見えだからな?
ああ、もう。
俺は視線を和平に向ける。
ここまで来ると、短く揃った髪でさえ心が痛い、気がした。
「わひら」
俺は、お前らのどっちに同情したらいいのか分からねぇよ。
「そういう意味じゃねぇよ」
“これ”見ておいて、自分にそういう意味で好意があるって気付かない宵一も宵一だとは思うけど。
