思わず。
目を丸くして、手を止めてしまうような。
『―――…な、…みさ』
なのに。
もう一度聞きたいと思ってしまうような、そんな声で呼んだのだ。彼は。
それは私に、それが“誰か”の名前だと一瞬で悟らせた。
「とよちほさん…?」
彼のそんな声は初めて耳にした。
私が名前を呼んでも、都世知歩さんは目を覚まさなかった。
しかも、覚めたくないように、見えてしまったから。
私が起こすことは出来ない気がした。
すごく、すごくびっくりした。
どきどき、した。
どんな風に誰かを想ったら、そんな風に呼べるのだろうと思った。
なみ?
ななみ?
…なるみ?
あ、これはうちのお父さんの名前だったわ。
私も小さい頃はよくお母さんの真似して『なるみ!』って何かと声張り上げてたなぁ。
はいはい想い出に浸らない。
取り敢えず、雑誌を手にした私は自室にそれを置きに行こうと席を立った。
都世知歩さんに毛布持って来なきゃ。
それから、次はちゃんと、会話しよう。会話。
ドーナツも二人で食べよう。
