【SIDE 都世地歩 宵一】
『中村さんには挨拶したんだけど、りっちゃんにはまだなんだ』
お礼言いたいことがあって。と、衵が言った。
久し振りだと隣でそわそわする衵に紙袋を手渡し、俺は改めて中村さんに挨拶するため彼のところへ。
会った中村さんに「衵ちゃん、宵一に余程懐いているみたいだね」と微笑まれて拍子抜けした。
懐いている、って。
犬みたいだとツッコみつつ考えてみれば、確かに衵はちょっと犬っぽいかもという想像に辿り着いて笑いそうになる。
単純…。
単純だしちっちぇのによくなくし吠えるし物怖じしているところも、あまり見たことがない。
ポストと階段の奥にある律宅の玄関が開けっ放しなことを目にして廊下に出ると、中村さん家のドアが閉まった瞬間声が飛んできた。
「――…黙れって!!」
え。
ケンカしてるのか!?
何でだよ!?
「だからそう言ってんだろ!?」
何が!?ちょっと目を離した隙に一体、何があった!?
