理想の都世知歩さんは、





訳が、わからない。


兎に角寝ている分には聞けないし、都世知歩さんがこの時間に眠ってしまっているなんて珍しいことで。

余程疲れていたのか、それとも少し夕寝しようとして長引いているのか。


「私も、ドーナツ買ってきちゃったじゃないですか…」


自分の袖口から覗く同じ色の袋を台所に置く。


洗面所で手洗いうがいをしたら、ふと鏡に映った自分が締まりのない表情をしてしまっていたことに気が付いて、慌てて唇を固く結んだ。


まだ、自分が着ていたスプリングコートを都世知歩さんに掛けるのも、彼の部屋からひざ掛けなり毛布なりを持って来るのも、気恥ずかしかったからただ隣に座って、ドーナツの下敷きになってしまった鍵雑誌を引き抜いたりする。



「――――み」



ぽつ、と。


都世知歩さんは、言葉を零した。




ふと顔を左に向けると、彼は少しこちらに顔を覗かせていて、ドキリとする。

他人の寝顔って何だか見慣れない。


単に、起きるのかな、と思って待った。




「―――…な、…みさ」




「…へ」




――――――まるで。


何かを探すように、追い付けないものの名前を呼ぶように。




都世知歩さんは、誰かの名前を呼んでいた。



誰かの名前を呼ぶ都世知歩さんが、眸に映って焼き付いた。