「……あこめ」



「……、ぇ」




問い掛けるように寄った傍は、衵の泪が落ちる範囲だった。



久しぶりに呼ぶ名前は、とてもじゃないけどそんな感じがしない。


衵は、幽霊でも目にしたかのような表情を変えずに振り返ったまま、フリーズしている。



思えば、それくらい会っていなかった。



ルームシェアは春だけで、夏も、秋も、冬が始まる時も違うところにいた。


衵の姿が家に在った期間の方が何倍も短い。




「え……」




ぽつり。


衵が柔らかい言葉を零す。



「よ、よびそうになったから…?」





なに?



なにかと思って覗き込もうとすれば、衵の肩が上がる。


久しぶりに会った衵。


電灯にぼんやり照らされた髪。

項まで短くなっていた。


肩甲骨辺りで緩いウェーブを描いていた髪の跡を残さないくらい。


色も明るめだった蜂蜜色から濃い栗色なっていて、驚いた。


よく判ったと思う。

でも前髪が少し伸びたけど、はねっけは変わっていない気がするからそれかもしれない。




「あ、あれ。本物……?」