それからまるまる三日間、私は都世知歩という変な苗字の男とは口をきかなかった。
何故かって?はははは。
怒ってるからに決まってるでしょ!?
『10年前のですか』って言ったよアイツ。信じられない。
悪かったね。アンタの10年前イメージパンツが、私の一番のお気に入りだったよ。
本当もうどこか行ってくれよじゃなくて埋まってくれよという想いで胸がいっぱいだった。
総無視1日目。部屋の窓から帰路につく都世知歩が見えたらむしゃくしゃしたので窓から塩を巻いた。
当然バレて怒鳴られた。
1階の小路脇に落ちた塩の塊を拾えと都世知歩が夕暮れ時の窓の外から煩いので、180度ほど捻じ曲げた表情で下へ降りて行った。
此処だ其処だと煩い都世知歩を通り過ぎる際には足を踏ん付けてやった。
痛がって地団駄を踏む姿に笑みが零れる。
背後に落ち武者の如く近付いてきて「お前だけその塩夕飯に使えよ!?」とまだ煩いのを完全シャットアウトして先に階段を上り、少し待ち、都世知歩がやっぱり姑の如く小言を零し続けたところでドアを開けて中へ入り、奴がドアに手を掛けたところで閉めてやった。
奴、小指を挟む。
声にならない声で泣く。
我ながら悪質。
反対側の手で開けてきたところに、持って帰ってきた塩を置いてやった。
因みに都世知歩お気に入りの洒落たスニーカーの中もお清めしてやったら翌日履いて初めて気が付き、大事な靴を地面に叩きつけて憤慨していた。よしよし。
総無視2日目。流石に2日間寝起きを繰り返したら怒りも少しずつ収まってきた。都世知歩のあの、おばあちゃんのパンツを目にした時よりも冷めて興味なさげな表情を思い起こさない限りは。
今日は私が料理当番だったので、夕飯の麻婆豆腐を激辛にしてあげた。喜ぶかな。泣いて喜ぶかな?
材料費を無駄にするわけにはいかないので、私もそれを食べる覚悟で作らなければならないのが欠点だった。因みに朝食は真っ白な食パン――のミミを出してあげた。
ちょっと情が沸いて、周りの物を豪華にしてみた。ヨーグルトにはラズベリーと蜂蜜。青汁スムージー。苺ジャムにマーガリンを備えて、お昼のお弁当の冷凍食品の残りのチキンとウインナー、卵焼き。
そして夕食を終えたらしい都世知歩は私の部屋を訪ねてきた。
ドアを開けると唇をパンパンに腫らした都世知歩がそこに立っていた。
「おま、……」
「……何か?」
「ブフッ」
当然、同じものを食した私も同等、唇が変形していた。
それを見て都世知歩は涙を流して笑ったが、私も負けじと腹を捩じらせた。夜中、思い出してみても涙が出るほど傑作だった。絶対都世知歩の方が優秀な唇。
けれど、まあ。あの激辛麻婆豆腐を完食したお皿を目にしたので、もうそろそろ、許そう。
