いつかの、大切な人の夢を見ていた。



『――衵、』



そう私の名を呼び、大きな手の平を差し出してくれた。
夢。



外の世界からは声がした――――。








「…………、……、ぎ、ぎゃああああああ」


泣いて擦ったらしい腫れた瞼の重み以外は、何の重みも感じない朝。目を開けたそこに見知らぬ男性の綺麗すぎる寝顔。首に重重と乗っけられた腕。目を見開いて叫ぶ。当然の礼儀。


「ぎゃああああああ、あああああ、ああああ「うるせぇな」


「ぎ「うるせぇ!!」



…気を失ったフリをしようか。



吐血しかけた私が横たわるその隣に、聖人天使が横たわっていた。

あ、間違えた成人男性だ。…。


「うわああああああああ「テメェいい加減にしないとぶん殴るぞ?」


私は「ヒィッ」と声を上げて両手で口を塞いだ。ってこれはどういうアレ!?!?



「チッ、うっかりそのまま寝たのか…」


「!?」

鳥肌が立つほど冷静な成人男性都世知歩さんが腕を外して身体を起こす前で、真っ青になる。


何、それ。ソノママッテ、エ?


「どどど、これは一体、どどど、どういうどどど「どがうるさい黙れ」


白に黒が重ね着風の長袖を着た都世知歩さんは、その上で首の音を鳴らし、「身体が痛い」と呟いた。

そりゃあ畳の上にそのまま寝たら…ってオイオイ。


「都世知「今から状況説明するから」


待った、とそんな可愛いヒヨコみたいな寝癖を跳ねさせた都世知歩さんに言われても困ります。貴方いくつなんですか。今年で21歳なんでしょう?


「衵、お前どこまで憶えてる」


寝癖には気付かずそのまま、都世知歩さんは胡坐を掻いて私に向き直る。

「え、え?」

「いいから落ち着いて思い返せ。憶えてるなら」



明け方の窓から入ってくる風に乗って、今日は焼き魚に代わって都世知歩さんの石鹸の香りがした気がする。いいシャンプー使ってるのかな。


「たぶん、ですが」

「ん」

「お、『お母さんになってやる』とか、なんとか聞こえた気が……、っ」