六月。




兄の家に越すということで、置いて行く物は後で処分することにした。


部屋にあった小さな折り畳み式の机とか、薄緑と薄橙の座布団二つとかそういう物。

洋服や布団はお兄ちゃんの車で。

でも、なるべく都世地歩さんが仕事とかで不在の時に引っ越し準備した。


何となく見つかるのがいやだったから。



「…で、何時出るんだっけ」


「も、もうそろそろ。…あ!都世地歩さん」

「?」

「私が出て行った後に私の物が見つかっても、捨ててくださいね。部屋も広く使えるようになる、から…」

「はいはい」

「家賃も。出世払いだけは忘れませ「わかったって」


お店が定休日の朝方。

ワイシャツ姿をキメている都世地歩さんは、何故か午後から出版社に出社するという。


都世地歩さんは何とも思わないだろうけど、私は朝ご飯を一緒に食べることさえ、何だか。

昨日だって、晩ご飯も何もかも最後なんだって思ったらだめだと必死になって言い聞かせた。


けど涙腺崩壊の心配をよそに、私自身現実味がなかった。

明日もまた、同じここで目の前の都世地歩さんに洗濯物出したか聞いていそうだった。


不思議。

ここを出て行くなんて。


短い間だったのに、あっと言う間だったような、とても長い間ここにいたかのような気持ちになっている。


私は最後の荷物を詰めた、最初の時と同じキャリーに手を掛けていた。


あああいやだ!見送らないでほしい!






そして。




あろうことか私は、見送りたいと言って聞かない都世地歩さんがトイレに入った瞬間を目にした途端、目にも止まらぬ速さで玄関を後にしたのだ。


ごめん!とよちほさん!



慌てた私は、階段からキャリーケースを転がり落とした。当然だ。

「ウワァァ!!」