「…別れ話なら聞かないけど」
「、」
息が、詰まって。
何を言っているんだと見上げると、へらりと笑う彼に冗談を見つける。
しゃがんだ膝の上に掛かる手首を抓ると「痛い!」と表情を浮かべてから、また。
その綺麗な手に握られたチラシの一枚に視線が留まる。
「…」
早いなぁ。
夏祭りのお知らせ。
「行きたいの?」
「へ」
そのまま立ち上がる都世地歩さんに続きながら、小さく笑みを浮かべた。
階段を上る背を見上げる。
柔らかそうなダークブラウンが、やさしい風に揺れる。
そういえば初めて会った時もこの背を、都世地歩さんを見上げた。
キャリーケースを運んでくれたのだった。
「衵」
「ん?」
「昨日、ありがと」
これで、息が詰まるのは二回目だった。
私は、返事を飲み込んで、見えもしないのに頷いた。
