「衵?何かあった?電話」
「私、引っ越すんだって。やっぱばーちゃんにバレちゃったかなー」
二雲は、小さく目を見開いた。
「大丈夫大丈夫、私ここにいても迷惑掛けてばっかだったから都世地歩さんも喜ぶだろうし。最初から嫌そうだったし。今思えば、私のこと、嫌……、…。……っ」
途切れた言葉。
私が都世地歩さんと一緒に生活して、呆れたり泣いたり、笑ったりしたこの場所。
繋がりが、簡単に解けていってしまう。
ダイニングテーブルにあるティッシュ箱のティッシュを、全部鼻をかむのに使い切った。
絶対、後で都世地歩さんに文句言われる。
でもしょうがないから、もうそういう文句が聞けるのも最後かもしれないから、いとおしく思ってやろう。
そう誓う。
納得がいかないと言ってくれる二雲。
私は二雲がそう思ってくれるだけで充分だ。
申し訳ないことに最近弱いところを見せてばかりの二雲には、次のお給料が入ったら焼肉をご馳走することにして。
私が顔をぐちゃぐちゃのよれよれにしている間代わって作ってくれた晩ご飯は、口に無理矢理でもいいから食べろと押し込まれた。二雲、私と同じぐらい料理出来ないから、卵掛けご飯だったけど。
いつの間にか何度も繰り返して口にしていたらしい「ありがとう」を、「もういい」と止めた二雲の表情は、何だか泣きそうで。
それを目にした私も、彼女が作ってくれた卵掛けご飯の味がわからないくらい泣いてしまった。
