その時りっちゃんが何かを口にしたような気がしたけれど、私は聞き逃してしまった。
腹が立つ、とか。
そんなことを言われてしまったような気がする。
雨は降っていないのに、何処か遠くで雨音がした。
すると、彼は軽く笑い声を上げた。
「宵一。酔ってたし――――“好き”な相手なら、キスくらい押しかけてるんじゃねーの」
始めに上げた笑い声より遥かに温度の感じられない音。
信憑性のないそれでも、心の奥底にすとんと落ちた。
それくらい私も、不安定なそこに立っていたのかもしれない。
「そう、かな」
どうしても、何て返したらいいのか分からなくて、へらへらと笑ってしまう自分がいた。
どう返すのが正解だっただろう。
誰の為に、何の為に。
それを返せば良いのだろう。この決して軽くない気持ちを。
「……ごめん」
息をそっと押し殺した時。
少し上からそう聞こえて降ってきたりっちゃんの声。
顔を上げて、視線を交ざらすと自然と言葉が出た。
「私、泣いてないよりっちゃん」
だからそんな顔しないで。
「へへ、りっちゃん凄いね。私の気持ちバレたのか」
「…和平、分かりやすいから」
「それはかなり困るな…バレないようにしてるのに」
「…」
やっぱり、何処か遠くで雨の降る音がしている。
