「お前、本当面倒くさい」
容赦なかった。
でも。
私の寂しいって感情は、今の一瞬でどこに連れていかれたのだろう。
そう思うくらい、目の前がきらきらした。
「う、ん」
凄い。
凄い人なんだ、都世知歩さんは。
「本当だ。私、凄く面倒くさいですね」
ぽろぽろ言葉を零したら、同時に涙も溢れて出てきてしまった。
「お前な」
「あ、違います!これはその、寂しいって感情の、残った分です」
だから、有難うございますと小さく口にした。暗くてよく見えないけれど、都世知歩さんが笑ったのが分かった。
未だ嗅ぎ慣れない煙草の香りがして。
「お利口さん」
そっと囁いた声が聞こえた後、都世知歩さんは私の泪を指先で掬ってくれた。
「こんな日の終わりが、一人じゃなくてよかったです」
「違います。『一人じゃなかった』って言いなさい」
「一人じゃなかった…」
「そう。それからもうひとつ、」
都世知歩さんは付け加えると、真っ暗な私の部屋から覗く月に手を伸ばして笑った。
「どんなに悪いことがあった日も嫌なことがあった日も、こんな日とか言わない。『こんな良い日』って言いなさい。今日だって、一人じゃなかったって分かった日になっただろ」
「はい…」
「何?」
「都世知歩さん、何か先生みたいです」
「こういうの嫌いじゃない」
「あと、ずみまぜん。やっぱり鼻かんでもい、むっ…わあ!?と、とよちほさんっ!折角のパーカの裾が…!」
「いいから。別に気にならない。涙だけ拭うとか格好つかないし、それに」
「それに?」
「洗濯当番、衵からにするから」
「……ハイ…」
都世知歩さんは、ゆるりと意地悪な顔で「解ったらもう寝ろ」と私の髪を掻き乱して。
最後に、「明日の朝飯当番くらいは代わってやる」と加えて部屋を出た。
・・・
