電気も点けてない空間で、下ろした腕が膝に触れると冷たかった。


もう何か、独りなんだなぁとか。
一人で生きていかなきゃいけないんだとか高校生には戻れないんだとか。

眩しかった日々が、急に容赦なくフラッシュバックして。


誰よりも前に一歩踏み出したつもりが、誰よりも先に独りぼっちになった不安感に変わっていた。

いつの間にか。


思い知らされるのは、自分でもびっくりするくらい突然だった。




「なに突然。ホームシックってやつ?」



都世知歩さんにドアを開けられたのは、この時が最初だった。




私が勝手にやってはいけないことなんだと思っていた“禁止事項”の上に、あっさり無かったことのような顔をして踏み込む都世知歩さん。
ドアを開けると立ち止まることなく暗い部屋に入ってきて私の前にしゃがみ、顔を覗き込もうとする。

「わー!み、みないで、見ないでくれ…っ」

はー、と溜め息をつかれて余計にそれは心に刺さって、只管泣かないよう歯を食い縛る。


「突然、でもないか」

「え、えっ」

「アンタ、朝何となくおかしかったもんね」

「??」

顔の前で腕を重ねて見えないようにしながら、耳に届く声の意味はとれなかった。


「大丈夫だよ。電気ついてないから顔見えないし、俺別に人の泣き顔に興奮する趣味とかないし」


!?興奮!?

何を言ってるの都世知歩さん!そんな人いるの!


「…早く腕退け」


怒ってるし…!何で怒られてるの私…?

恐る恐る腕の力を弱めると、ガッと掴まれて、無理矢理ガードを解かれた。

まだ鼻水拭ってないのに!!


「プ」
「!?」

「何ホームシックくらいで泣いてんの?社会なめてんの?」


!?!?!?!?


慰めてくれるんじゃなかった!!?

御免なさいちょっと王道的にとか期待してた私がいました御免なさいいやだってでも、ねぇ…?
普通そう思うよね?思いますよねというか思いましたよね?



「衵。あんた何がしたいの?ってか何しに来た?わざわざこんな都会に来てメソメソ泣いて高校生に戻りたいとか戻れもしない過去ばっか振り返って挙句の果てには金出して貰ってる両親に戻っておいでとでも言わせてぇの?なぁ?オイ。誰もテメェにここに来てくださいって頼んだわけじゃねーだろ?お前が。両親に。ここに来たいって頼んだんだろ?」