手を引かれたまま階段を上って、明かりの点いたままの玄関を潜る。
鍵。
珍しく開けっ放しで。
「都世知歩さん、鍵閉めなかったんですか」
「ん」
短い返事。
それに、どれだけの心配をかけたかが滲む。
不意に小さく振り返った都世知歩さんが「何その顔」と切り出して、唇をきつく結んだままの私に言った。
「また、変な奴に絡まれたのかと思った。考えてみれば時間的に衵家に居ないことなんてなかったし、ケータイは家だし」
靴を脱ぐために、離された手。
「でも、鍵は閉めて…」
「だーから」
キッチンの方へ移動する彼は、今度は面倒くさそうに腕捲りをして何かを。
私はダイニングテーブル一杯に並べられた料理を目にする。
「へ」
都世知歩さんは冷蔵庫からお酒の缶を取り出して、あとには何も続けずふわりと笑った。
誰も居ない家に帰って来て、呼ぶ名前。
いつも通り過ごしているのに、目が合う時計の針と文字。
頬杖と溜め息をついたら、お腹が鳴って。
仕事にでもなったか、そしたらお腹空かせて帰ってくるだろうか、キッチンに向ける爪先。
作っている間に「お腹空いた」って声が聞こえる気がしてるから、何となくその場所以外で待っている気にならない。
そういうことを教えてくれる手料理がそこにあって。
都世知歩さんと一緒にいつも待っているんだよって言われたような気がして、思わず笑みがこぼれた。
「はいはい、笑え笑え」
「なんかちょっと、特別な日みたいです。手の掛かる料理がたくさん」
「手が掛かるのは衵の方だけど」
「……はい」
都世知歩さんは、何か言いたげに舌を出す。
私が好きなものばかり揃った料理。
冷めても、美味しいなんて。
言葉が、
零れそう、だった。
