記憶の消去に励む傍らで衛くんが咳をした。
頭を悩ませつつ抱っこしたまま、玄関に入って置いてある鍵を手に取る。
「ごめんね、熱あるんだもんね…おなかは空いた?」
すると衛くんは、目先のダイニングテーブルにある籠脇に置かれたさくらんぼを指した。
ビニール袋の上に置かれるそれは、丁度、都世知歩さんがどこからか持って帰ってきたものだった筈。
お、目が高い…。
恐る恐る手にした時、安堵したように回す腕に力を込めた衛くんが可愛くて。
万が一都世知歩さんが激怒したら、土下座しようと覚悟した。
都世知歩さん楽しみにしていたらごめんね。
さくらんぼ。
兎に角さくらんぼの袋だけ手首からぶらさげて鍵を閉め、下に降りる。
手を掛けた101号室は開いていた。
きけん。
しかしまたしても(都世知歩さんが前例)勝手に人のプライベートに入り込む私の方が危険なのではないだろうか。
再び冷や汗をかいていると衛くんにうまく急かされてお邪魔した。
中へ入ると、間取りはうちと一緒らしく親近感。
普段から衛くんがいるのかどうかは知らないけれど、男の人の独り暮らし(?)(あまり触れたくない)だからか小ざっぱりしていた。
多くリポートするのもあれだけど、ただりっちゃん、物を積み重ねるクセは直した方がいいかと思われる。
私ほどではないがきけんだ。
向かいの左右に並ぶドア、衛くんは左を指した。
うちでいうと都世知歩さんと同じ方の部屋。
