もう、何度目かになるバカじゃないのかという言葉を飲み込む。
一応、病人相手。
溜め息をつく前に、申し訳なさそうに見上げる衵が目に入る。
「い、今から大人しく寝るんじゃ遅いですかね」
遅いわ。
そこで俺は黙ったまま、不安そうな衵の腕を引いて立ち上がらせた。
無抵抗な彼女は俺が怒っているとでも思っているのか、されるがまま。
膝に当たった椅子が音を立てた時、引いた腕を首に回させ衵を抱きかかえる。
というより半ば強引に担ぐ。
「う、あ」
驚きと抵抗に強張る背中は熱い。
一番近くで、咳をしないように堪えているのであろう。衵の息は上がっていた。
「な、んですか、歩ける、大丈夫です」
「んー…」
どうせ、マスク買ってなかったことに後悔でもしている最中なのだろう。
それでも落ちないようしがみつく彼女の背中を、小さく笑って摩る。
衵が。
隠し事に長けていなくて良かった。
気付かない方がいいことが沢山ある中で、“気付けてよかった”と思えることがあった。
衵は、人に心配を掛けそうになるとすぐ力が入ること。
でも、絶対突き放したりはしないこと。
衵のそれに気が付ける人が増えていけばいいと、親みたいに思った。
