私たちは互いの見送り等を積極的に行わない。

そういうところに、願ってのシェアじゃない感が出て来る。

私は一度も都世知歩さんのお部屋を見たことはないし、ましてやノックをしたことすらない。
逆もまた然り。

今のところ洗面所が一緒になったこともない。

おやすみを言い合った記憶もない。


いってきますも、ただいまも、いってらっしゃいもおかえりも。


ちゃんと見えない境界線があって、それは踏み込むべきものじゃないと誰かに言われているような気がして、私もそれが大人の付き合い方だと思ってる。

始まったばかりだけれど、きっとこれからもそうなんだ。




「で、寂しさ募る私…」



4月から正式に働くまでの間、チェーン店である洋服屋さんの別のお店で簡単な研修を受ける日々。
座学中心の指導を終え、帰宅しても勿論誰もいない。

いやいや、何を言っているの私ったら。

元々一人暮らしの予定だったんだから当然でしょうが!

きっと、多分、有難いくらいなんだ。


我が儘言うんじゃない。


ダイニングテーブルに突っ伏して、勉強道具の教科書みたいな物である沢山のファッション雑誌を自室から持って来て読み漁る。

春から働くんだから。

働くんだから、弱音吐いちゃだめだ。


高校時代のバイト代だけでは足りなくて、お金の面でも助けて貰ってここに居れてるんだから。


ちょっと前までは。

友だちと騒いだり寄り道したりしながら帰っておやつ食べて、洗濯物取り込んでって言われて渋々やって、自分の部屋行こうとしたらお風呂洗ってって言われて苛々やって。ご褒美とでもいうかのようにお母さんのご飯が出てきて。

美味しくて。


当たり前だと、思ってた。

今ならわかる。

当たり前じゃ、なかった。


私、馬鹿だから自分のことばかり考えて、実家出るときお母さんに「ありがとう」って言ってないよね。


テレビのリモコン取り合いしたり、そういうのもないんだと思うと。

何か。


何か…。








気が付いたらダイニングテーブルの上で眠ってしまっていたようで、鍵が開けられる音の後の「うわ」という声で目が覚めた。