玄関前、無意識の内に立ち止まる足を無理に動かして、ドアを開けた。
キッチンから零れる明かりが、都世知歩さんの居場所を示してる。
「ただいま」
「お。かえりー」
玄関に入るなり、おたまを持った都世知歩さんが振り返ったのがわかる。
「今日カレーな。エビと筍入り。今煮込んでるから」
「今日都世知歩さん当番でしたっけ」
「違ったっけ…って、衵、何か紫陽花のにおいする」
「え」
傍まで来て背を曲げる彼に「どうして」と単語を発す。
「今日道端に咲いてたから、嗅いだ。それと同じ」
「覚えてるの…すご、い」
「凄いだろ」
ニ、とドヤ顔で笑う都世知歩さんに、呼吸が詰まっていく。
「なんか。衵、顔色悪い…?」
「そんなことないです」
少し、会話のテンポが遅れた。ずれた。
「何かあった?」
『私、今の好きな人に出会ったのが――――――』
都世知歩さん。
好きなひとに『好きな人』がいるって知った時、どんな気持ちでしたか。
胸が張り裂けるような想いがしましたか。
辛かったですか。
やっぱり今も、苦しいですか。
