理想の都世知歩さんは、





原因のわからない感情を持った私が抱えていた紫陽花に、りっちゃんは触れなかった。


何でだろう。

何よりも曇天の下に映える紫陽花なのに。








店内は外の空気より少し暖かくて、雨に晒してしまった紫陽花に申し訳なく思いつつ、それを伝えた左谷さんに手渡し、そのまま出勤。








退勤後。

帰路に、雨は降っていなかった。


代わりに、手持ちの長い傘が二本に増えた。

私の白枠ビニール傘と、都世知歩さんの青い紫陽花色の傘だった。




その重さに、仕事中は忘れていた筈の見えない想いが蘇ってきてしまって、私は薄手ニットの胸元をひっぱって握りしめた。






身体が気怠い、重い。





わからない気持ちが多くて、もどかしい。





何となく家に帰りたくないと思った。




「……都世知歩さんに会ったら、」



小さく呟く。