「でも、全然上手くいかなくて」
「……へ」
菜々美さんの瞳の色は、雨に侵されて哀しそうに微笑んでいた。
好きなのかと思った。
一度は気持ちを疑った。
確信した。
戸惑った。
いとしいと、思った。
もう、
後には引き返せない。
つらい、苦しい。
それでも。
それでも、と彼女は口にした。
私はそれを見つめていた。
彼も、彼女も、綺麗だった。
私だけだ。最低なの。
都世地歩さんがいるのに?って、菜々美さんに思った。
最低だ。
「何で、好きになっちゃうんだろうね」
都世地歩さんに愛されている菜々美さんがそんなことを言った。
彼女が愛されたいひとは別にいる証拠なのかと思ったら、辛かった。
私も。
都世地歩さんのつらいを少しだけ、味わったのかもしれない。
優しいと。
切ないと、辛いと、苦しい。
そこに佇む彼と彼女を想像したら、菜々美さんが「衵ちゃん、」と呼んだ。
彼女の顔を見た私は、何だか急に泣きそうになってしまって、慌てて紫陽花を抱きしめて。
小さく「すみません、私、帰ります」と口にして。
呼び止める声に耳も貸さず、冷たい雨の中に走り出してしまった。
