高校三年生に進級した今、あの宝石箱には、ブレスレットが入っている。

小さなハートのチャームがついた銀色のブレスレット。

潤一さんが「進級祝い」なんて言って、プレゼントしてくれた。

でも、一番のプレゼントは、宝石箱には入らない宝……思い出。

あのクリスマスの白い朝には、学校から帰るとき、初めて手をつないだ。

そして、春休みには……(おっと、これは秘密!)



父は、相変わらず「うまいケーキ」作りに命を懸けている(と、本人は言っている)。

母は、そんな父を上手く働かせて、店を切り盛りしている。

支店をつぶしたときにできた借金も、少しは減ってきたらしい。

裕太は、どうにか高校に合格できた。入学と同時に軽音楽部に入って、ギターを弾き始めた。


あたしは、学校がないときは店に出ている。

そしていつも、ケーキや店のディスプレイについての新しい工夫を考えている。

たとえば「ミニ喫茶店」といって、店内に小さなテーブルと椅子を用意し、ハーブティーや紅茶を飲みながらケーキを食べることができるようにもした。

潤一さんはときどき店に来て、紅茶を飲んでいく。


美味しいケーキは人の心を豊かにする。

それは、きっと誰かと心が通い合う和やかな時間があるからだ。

潤一さんのあたたかな笑顔が、それを教えてくれた。



 果林堂にあるのは
 300円のしあわせ

そう口ずさみながら、あたしはケーキを包んでいる。

食べてくれる人が幸せになってくれることを願いながら。



みなさん、さくら町ゆめ通り商店街にお越しの際は、是非、果林堂にお立ち寄りくださいね。