「この時間はもう終わり。次ガンバッテ」

 頑張っての言葉がやや投げやりである。
 しかしそれも解っているのかいないのか、教習生はにこりと笑ってハイと元気良く答えた。

 講評……。
 講評か……。

 最早何をどう伝えたら良いのかも解らず、亮介は小さく息を吐いて教習原簿を手渡した。

 教習終了を告げるチャイムが、心なしか哀愁を帯びて聞こえてくる。

「……あのさ」

 ありがとうございましたと運転席のドアを開けようとする教習生に、亮介は力なく投げかけた。

「免許欲しいなら今のうちにオートマに変更した方がいいよ。マニュアルは、ちょっと難しいから」

 遠まわしにマニュアル車には向いていないと伝えると、教習生は少し困ったように笑った。

「えっと、僕は何でもいいんですけど……。パパもママも、男はマニュアルだって言うし……。別に免許取っても乗らないし、身分証代わりになればそれでいいんで」
「あ……、そう……」

 その言葉に、とうとう掛ける言葉を失った。

 きっと悪気など無いのだろう。本当に身分証代わりになれば良いと思っているのだ。

 特に免許を取りたい理由も無い。

 パパとママが免許くらい取っておけと、男の子ならマニュアルだと、そう言うから。


 ――ああ。
 俺、ほんとになんで指導員になったんだろう。


「むらっちゃーん。随分手こずってたねぇ」

 悶々とした気持ちで校舎へ向かって歩いていると、通りがかった二輪車の待機所から声を掛けられた。

 同僚の佐伯だ。

 今日は二輪車の教習業務についているらしく、教習用のライダースを着込んでいる。

「いや、もう大物っすよマジで。1時限ぴくりとも動かせないんすもん。ぽんぽんクラッチ離すし。話通じねぇし」
「いやいやー。楽しそうだなーって思ってニヤニヤしちゃったよ」
「勘弁してくださいよ……」

 佐伯は亮介よりも2年早く入社している先輩で歳も3つ上であるが、ノリが合うため先輩と言うよりは同期に近い感覚をお互いに持っている。

 それだけに、会話も大分あけすけだ。

「俺も当たらないかなー。せめて路上出る前に一回乗ってみたい」
「……それマジで言ってます? 冷やかしっすか」
「ふへへ。どっちかなぁ」


 相変わらずへらへらしてんなぁ……。


 というのはもちろん口に出さない。