(でも……)



控え室に一人になり、俺はタバコの煙をくゆらせた。



もしも、カズが兄だったら…
きっと、うまくいくと思う。
今も彼との関係は至って順調だ。
ただ、気が合うというだけじゃなく、カズのことは信頼もしている。



(兄弟、か…)



俺は一人っ子だったから、兄弟には憧れみたいなものがあった。
弟は、店の従業員たちがそんな感じだが、兄みたいな人とは今まであまり縁がなかった。



俺は知らず知らずのうちに、カズのことを兄のように感じていたのかもしれない。



だからといって、本当の兄になるようなことはない。
俺とひかりは偽りの恋人なんだから。



(それに…)



万一、俺がひかりと結婚したいと思っても、ひかりの両親がそんなことを許すはずがない。
俺はホストという職業にプライドを持っているが、世間からは好かれない職業だということもわかっている。
だから、ひかりと結婚なんて有り得ない。



そう思ったら、なぜだか酷くイライラした。



(何をつまらないことを考えてるんだ、俺は…)



俺はタバコをもみ消し、その場から立ち上がった。