(たまには良いもんだな……)



見上げた空は子供が絵の具で塗りたくったような鮮やかな青……
俺には不似合いな爽やかさだが、気分はとても高揚した。

こっちに移って来てから、こんな時間に家の側を散歩することなんて一度もなかった。
忙しいだけではなく、気持ちの余裕がなかったのかもしれない。



(都会の割には静かでのどかだ……)

頭上をかすめ飛んだ大きな鳥に、俺は目を細める。



そんな時、俺の後ろから派手なアメ車が通り過ぎた。
せっかくの気分をどこか壊された気がして、俺は苦々しくその車の行く先を見送った。
車はすぐ近くの家に横付けされ、そこから一人の男が降り立った。



(……あ……あいつは……!!)



その男に俺は見覚えがあった。
そうだ……この間、ひかりと一緒にいた男だ。
ということは、もしやあそこはひかりの……いや、違う。
ひかりを送って行ったのは、こっちとは正反対の方角だ。
では……
男は門を開け、敷地の中に入るとチャイムを押した。
俺は物影に隠れ、その様子をじっと見守った。



(……何やってんだ、俺は……)



隠れていることが俺は無性に腹立たしく感じ、そこから離れようとした時に扉が開いた。
そこから顔をのぞかせたのは、また俺の知っている人物……美咲さんだった。
二人は何事かを短く話し、そして男は家の中に上がりこんだ。



(どういうことだ!?それじゃあ、ここは美咲さんの家なのか?
でも、だとしたらなんであの男がここに…?
……ま、まさか、あの男……
ひかりと付き合いながら、美咲さんとも付き合って……)



どう見ても真面目そうには見えない男だ。
あいつなら、二股をかけるくらい平気かもしれない。



(それじゃあ、ひかりはあいつに騙されているってことか…!?)



俺は気持ちが動揺するのを感じた。
出来ることなら今すぐにでも踏みこんで事情を聞きたい。
だけど、そんなこと、出来る筈もなく……



今の俺に出来ることは、そこでしばらく様子をうかがうことくらいだ。
もしも、長い間出て来ないようなら……きっと、俺の推測した通りだろう。



あの男は二股をかけ、ひかりはあいつに良いようにだまされてるってことだ…!